PCOSに対するグリスリン投与の臨床成績
2023年 日本卵子学会
(神﨑 珠里、稲飯 健太郎、笠岡 永光)
目的
マイタケから抽出される天然由来成分であるグリスリンは、PCOSの排卵障害を改善すると報告されている。今回、グリスリンを継続投与し、その成績について検討した。
方法
2019年12月から2022年4月の間にPCOSと診断され、インフォームドコンセントを得た34例を対象とした。患者背景は平均年齢29.8歳、平均BMI23.3であった。6ヵ月間グリスリン(Ovu270 サンメディカ社)を継続投与した。検討1)検討前、3ヵ月投与後、6ヵ月投与後で、ホルモン値をそれぞれ比較した。検討2)検討前、1~3ヵ月間投与、4~6ヵ月間投与中で排卵率をそれぞれ比較した。
結果
検討1)LH、FSH、テストステロン、インスリン、HOMAでいずれも有意差を認めなかったが、プロラクチンでは検討前と6ヵ月投与後で有意差を認めた(p<0.01)。またLH/FSH比にして比較すると1.55、1.25、1.27で検討前と3ヵ月投与後、検討前と6ヵ月投与後でそれぞれ有意差を認めた(p<0.05)。検討2)検討前、1~3ヵ月間、4~6ヵ月間の排卵率は、18.5%、36.0%、58.1%で検討前と4~6ヵ月間(p<0.01)、1~3ヵ月間と4~6ヵ月間(p<0.001)で有意差を認めた。また投与前のHOMA値が1.5以下と1.6以上で分けて排卵率を比較してみると、1.5以下では検討前と1~3ヵ月間に比べて、4~6ヵ月間が有意に高かった(p<0.01)。一方1.6以上ではいずれも有意差を認めなかった。しかしHOMA値1.5以下、1.6以上の妊娠率は、23.8%、61.5% で臨床的意義のある差は確認された。(p=0.066)。
考察
グリスリンの長期投与にて、排卵障害の改善の傾向がみられた。6ヵ月投与で有効性が高くなり、インスリン抵抗性の上昇を伴う症例では、妊娠率の向上が期待できると考えられる。