タイムラプスインキュベーターによりDirect cleavageが観察された胚の解析
第40回日本受精着床学会学術講演会 2022
(稲飯 健太郎・神﨑 珠里・笠岡 永光)
目的
タイムラプスインキュベーターから得られる情報は非常に多く、発生予測や胚選択に役立つことも多い。受精した卵子が分割するときに発生するDirect Cleavage(DC)は一割球から三割球以上に分割する異常であり、染色体異常を引き起こす一つの要因とされている。そこで当院でDCの起こった胚を解析した。
方法
2019年6月から2021年12月までに採卵を行い、正常受精・分割が起こった2376個の胚を検討対象とした。
全症例の胚をタイムラプスインキュベーター(CCM-iBIS NEXT,astec)で培養を行い、DCの有無を観察した。DCにより胚盤胞発生、および胚盤胞凍結後の妊娠率に影響を及ぼすか検討した。妊娠率の比較は、単一胚盤胞移植のみとした。
結果
全分割卵のうち33.2%でDCを認めた。DC(-)群とDC(+)群の採卵時平均年齢(34.9±5.2、34.6±5.1)および平均採卵回数(1.7±1.4、1.7±1.5)に有意差は認めなかった。胚盤胞発生率(66.1%、41.1%)、および良好胚盤胞率(52.0%、19.3%)はDC(+)群で有意に低下した(P<0.001)。
しかしながら、妊娠率(32.2%、25.7%)および流産率(22.6%、27.8%)において有意差は認めなかった。また、第一分割あるいは第二分割時のDCの比較では胚盤胞発生率(34.5%、56.5%)、良好胚盤胞率(15.9%、27.4%)共に第一分割でのDCで有意に低下した(P<0.001)が、妊娠率(26.3%、25.0%)、流産率(40.0%、12.5%)には影響を及ぼさなかった。良好胚盤胞を移植した時の妊娠率はDC(-)群35.2%、DC(+)群38.1%、流産率はDC(-)群22.4%、DC(+)群31.33%でありそれぞれ同等であった。
考察
胚の分割時にDCが起こると胚の発生能に著しい影響を及ぼすことが分かった。
しかしながら、胚盤胞まで発生すればDCのないものと同等の移植成績であることから、移植胚の選択においては形態評価等、他の項目を優先すべきであると考えられた。